北海道大学 研究シーズ集

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ライフサイエンス:48件

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  • 農水産業のDXを支える中心温度測定用食肉模擬装置

    実肉を使用しない食肉中心温度測定用デバイス

    食用動物の食肉を対象に、その中心温度を把握するための温度測定装置を開発した。本装置のプローブ周囲には、魚・牛・豚・鶏等の食用動物の食肉を模擬した比熱及び形状を有する材料を配置しており、実際の食肉に近い中心温度変化をリアルタイムで取得できる。

    • 図1 開発中の中心温度測定用食肉模擬装置の構成図

    • 図2 開発中の中心温度測定用食肉模擬装置と鮮度評価システムの関係

    研究の内容

    一般的に食肉の貯蔵温度管理は、食材が貯蔵されている貯蔵庫内の温度を計測し、温度管理を行っている。しかし、食肉を高鮮度状態に保つためには、その中心温度を計測し温度管理をすることが重要であるが、現状のサーモグラフィーカメラや温度センサーでは、その表面温度しか測定ができない。
    そこで、当研究室では、食用動物の食肉を模擬した比熱及び形状を有するプローブを作製することにより、食肉の中心温度変化を模擬できる装置を開発した。これにより、食肉を傷つけることなく、測定したい食肉の中心温度を取得することが可能となり、その温度変化を基に、理想的な温度管理が可能となる。また、食用動物の鮮度と食べ頃の可視化装置『MIRASAL(見らさる)』と本模擬装置を連携することで、実際の食肉を使用することなく、鮮度評価を行うことが可能となる。

  • 鮮度保持用液状氷の質と量の同時最適化装置

    食品の長期鮮度保持のための液状氷最適化装置

    単純な熱容量計算で食品用液状氷〔スラリーアイス(塩分含有水氷)又は無塩分水氷〕の必要最小量や、保管用容器の総括伝熱係数(容器放熱量パラメータ)を用いスラリーアイス温度を決定する塩分濃度・水/氷混合比及び貯蔵可能時間を算出する装置を開発した。

    • 図 スラリーアイスの温度の実測値と計算値の比較(左上図:キビナゴ、左下図:ハタハタ)とスラリーアイス中の氷量の実測値と計算値の比較(右上図:キビナゴ、右下図:ハタハタ(計算値のみ))

    研究の内容

    これまで、水産動物の鮮度保持に有用なスラリーアイスの製造量は、貯蔵時間を考慮した計算法が無かったため、多くの場合、過剰な量が製造され使用されてきた。そこで当研究室では、先に記載したように、保管用容器の総括伝熱係数を用いて、その場で迅速に、スラリーアイスの質(塩分濃度や水/氷混合比)と量(貯蔵可能時間)を同時に最適化する装置を開発した。本法は、真水由来の塩分を含まない液状氷の製造にも適用可能なため、水産動物以外の食品(野菜・果物・畜産動物)にも利用でき、現在その発明内容の権利化などに取り組んでいる。

  • 食用動物の鮮度と食べ頃の可視化装置『MIRASAL(見らさる)』

    安全・安心を実現する食用動物の鮮度と食べ頃の評価装置

    我々は、産業技術総合研究所と共同で、致死後の食用動物(水産動物や畜産動物)の任意部位における分解成分の濃度の経時変化をシミュレーション法により求め、鮮度と食べ頃を評価するための可視化装置『MIRASAL』を開発した。

    • 図1 開発中の鮮度評価装置の入力画面と計算結果の例

    • 図2 開発中のMIRASALウェブサイト

    研究の内容

    魚介類の産地および消費地における卸売市場では、鮮度が取引価格を決定する1つの重要な基準となっており、その評価指標としてK値が提唱されている。しかし、その値は死後の水産動物の任意の部位をサンプリングし、種々の前処理後に成分分析を行い算出するため、流通現場でのリアルタイム評価(把握)は出来ない。当研究室では、妥当なシミュレーション法による課題解決を考え、上記したような手法を用い、魚介類の種類や大きさ、死後の経過時間や保存温度などの各種情報から、鮮度と食べ頃を評価できる装置を開発し、現在その発明内容の権利化や携帯性の向上(スマートフォン等での利用)などを進めている。本装置『MIRASAL』は、牛肉・鶏肉・豚肉といった畜産動物にも適用可能である。

  • 魚類の細胞を生殖細胞化させる研究

    養殖魚の借腹生産や品種改良の効率化を目指して

    動物の初期胚の細胞の多くは身体を構成する体細胞へ分化し、一部の細胞のみが精子と卵の起源となる生殖細胞へ分化します。当研究室では、魚類初期胚のほぼ全ての細胞を「生殖細胞化」できる技術を開発し、水産業への応用研究を進めています。

    研究の内容

    近年、マグロのように産業的な価値は高いが、飼育が難しい魚の配偶子(精子と卵)を、飼育が容易な魚に作らせる「借腹生産」技術の開発が進められています。効率的な借腹生産を実現する為には、ドナー魚種の生殖細胞を標識・選別・濃縮して、ホストとなる魚に移植する必要があります。しかし、生殖細胞は個体発生の初期にごく一部の細胞集団として出現するため、生殖細胞の選別には高度な技術が必要でした。
    当研究室では、魚類初期胚の全ての細胞、もしくは、特定の細胞を「生殖細胞化」できる技術を開発しました。生殖細胞化した細胞は、選別なしにホストに移植できるため、効率的な借腹生産技術につながります。また、ゲノム編集や染色体操作技術を組み合わせることで、生殖細胞のみの遺伝的改変が可能となり、効率的に目的とする実験魚や品種の作出が可能となります。

    西村 俊哉 助教 Toshiya Nishimura
    理学博士
  • 耐水性が高く透明な酸化グラフェン/抗菌・抗ウイルスコーティング

    ナノカーボン材料の酸化グラフェンと,抗菌・抗ウイルス剤を複合化した,新しいコーティング法を開発しました。耐水性が高く,透明で基材の色に影響を与えないことから,水周り衛生に向けた新しいアプローチとして期待できます。

    • 酸化グラフェン抗菌・抗ウイルスコーティングの方法

    • 酸化グラフェン(GO)と抗菌・抗ウイルス剤(界面活性剤:CSAA)複合膜の耐水性と抗菌特性のメカニズム

    研究の内容

    微生物は水の存在する湿潤環境を好むことから,手洗い設備等の抗菌・抗ウイルス性が強く求められています。しかし,これまで水周り環境に,簡便かつ長期的に安定して抗菌・抗ウイルス効果を得ることは出来ませんでした。酸化グラフェンは,厚さ約1nmのシート構造を持つナノカーボン材料で,多数の酸素官能基を有することから様々な分子やポリマーと強く相互作用します。この性質を利用して,基材の表面に酸化グラフェン超薄膜を強固に付着させ,さらに抗菌・抗ウイルス剤を結合させる新しいコーティング技術を開発しました。酸化グラフェン膜は透明で基材の色味を損なうことも無く,基材との結合も強いことから水で洗っても脱落しません。また水中で1か月間保管した場合でも,酸化グラフェン膜は剥離脱落することなく基材の表面に残存していることを確認しました。

    宮治 裕史 教授 Hirofumi Miyaji
    博士(歯学)
  • 生体成分の代謝と未病

    生体成分の代謝を考慮した非感染性病態発症機構の解明:食品の機能性評価系としての応用

    生体成分(胆汁酸やミネラルなど)の代謝解析を基盤として、各種疾患の発症機構解明と実験動物を用いた未病モデルの確立に関する研究を行っています。食を介する疾患発症予防の作用点解明を目指しています。

    研究の内容

    加齢と摂取ネルギー過多により肝臓で合成される胆汁酸の内訳は変動し、その状態での胆汁酸の組成・濃度は概ね特定されます。したがって、特定の胆汁酸を実験動物にごく少量与えることで、この状況での胆汁酸環境を模倣した状態を構築することができます。その結果、脂肪肝や関連病態が生じることを見つけました。また、亜鉛の軽度欠乏が潰瘍性大腸炎の未病モデルとなることを見出しました。これらのことは、食生活の偏り(過剰・不足)により継続的に生ずる軽微な代謝変化が感染性・非感染性疾患の発症に関与すること、食事成分の制御で当該状況を模倣した実験系自体が「未病」のモデルとなり得ることを示しています。現在、各種未病モデルの構築を行うとともに、それらの発症メカニズム解析を実施しています。さらに、これらの系を用いて食品の機能性評価を行なっています。

  • オプトジェティクスによる新規医療技術の開発

    光の特性を利用した深部癌治療法、創傷治癒・組織再生促進療法の開発

    様々な波長の光を利用して、生体内表面から深部にいたる病変(癌、損傷)を治療する技術を開発する。光による遺伝子発現の制御技術(オプトジェティクス)を基本技術として、さらに波長の異なる光を組み合わせることで体表から深部病変の治療法を開発する。

    • 様々な波長の光を利用した生体深部癌の治療法

    • 様々な波長の光を利用した生体組織の修復・再生促進療法

    研究の内容

    光照射においてはオン・オフをコントロールすることは容易であり、優れた時間分解能で操作することが可能である。また、狙った細胞に限定して光を照射することも可能であることから、空間分解能という意味でも優位性がある。一方、光の送達深度には限界がある。例えば、多くの光遺伝学的手法で頻用される青色光(400-500nm)は、生体透過性が低く深部組織への光照射は困難である。しかしながら、生体透過性が優れている近赤外光を利用することで、深部組織も治療ターゲットになり得ると期待される。
    我々は、生体透過性が高く組織深部へ到達可能なX線領域あるいは近赤外領域の光による直接的あるいは間接的な遺伝子発現制御システムを研究しており、それにより癌細胞死を誘導あるいは傷害組織を再生する遺伝子・蛋白質を細胞内に発現させることを試みている。

  • 独創的糖鎖誘導体ライブラリの作成技術 × どこでも使用可能なマイクロアレイ解析システム

    糖鎖自動合成技術を活用した独創的ライブラリ × オンサイト医療や研究を支えるマイクロアレイ技術

    糖鎖関連相互作用は感染症やがん診断等において重要な標的である。糖鎖自動合成技術開発の過程で構築・蓄積した糖鎖、複合糖質、糖質関連阻害剤、およびその誘導体ライブラリの活用法としてどこでも利用可能なマイクロアレイ装置の開発を行った。

    • 糖鎖自動合成技術からの飛躍

    • どこでもマイクロアレイの未来

    研究の内容

    マイクロアレイ技術は構造や配列が明確な多数の化合物ライブラリと検体成分との相互作用を一斉比較解析可能な技術です。また、我々は糖鎖自動合成技術を核とした独自糖質化合物ライブラリをマイクロアレイ解析用分子として設計・制作するための最先端技術を有しています。糖質が有する相互作用情報は、血液型やO157等の血清型、がん診断マーカー(CA○○○)など、体外診断用バイオマーカーとして幅広く使用されています。さらに、感染症の変異に伴う感染パターン解析やワクチン効果の詳細な解析など、検体収取とマイクロアレイ解析をスマートホンを端末としてその場で行い、オンライン診断に使用可能な独立電源型モバイル解析装置の開発に成功しました。

    比能 洋 教授 次世代物質生命科学研究センター 副センター長 Hiroshi Hinou
    博士(工学)
  • 糖タンパク質から直接糖鎖パターンを解析する技術 

    ~【世界初】前処理不要の糖鎖選択的イオン化技術~ (北大単独出願、単独発明者技術です)

    糖タンパク質や体液のような複雑な高分子や混合物中の糖鎖成分をMALDI法により選択的にイオン化する世界初の質量分析技術を発見しました。この技術は卵白や体液のような複雑な混合物中の糖鎖成分の直接解析にも利用可能であることも実証しました。

    • 従来の直接プロテオミクスと同一手順で直接グライコミクスを実現!糖タンパク質製剤の品質管理や糖質資源探索に新たな道を提供できます!

    研究の内容

    糖タンパク質上の糖鎖パターンはそのタンパク質の体内動態を決定する因子であり、重要なバイオマーカーです。これまで糖鎖パターン解析には糖鎖の切り出し、化学修飾、精製等の煩雑な操作が必要でした。質量分析は微量の生体分子を直接イオン化可能な超高感度高分解能分析技術です。しかし、糖タンパク質のような複合糖質や体液のような複雑な高分子や混合物中の糖鎖成分を選択的にイオン化する方法が存在していなかったため、先述の煩雑な前処理を必要としていました。我々は世界初の複合糖質糖鎖成分の選択的開裂と選択的イオン化を同時に達成し、糖タンパク質上の糖鎖パターンの直接解析に成功しました。また、この技術により卵白など複雑な混合物中の糖鎖パターンも直接解析可能となることを実証しました。

    比能 洋 教授 次世代物質生命科学研究センター 副センター長 Hiroshi Hinou
    博士(工学)
  • 独自の機能性脂質の開発を基盤としたin vivo核酸送達システム

    世界トップクラスの核酸導入能と安全性の両立

    siRNAの安全かつ効率的なin vivo送達を実現する独自の機能性脂質群を開発した。本脂質を含む脂質ナノ粒子は優れたエンドソーム脱出能力に起因する肝細胞への世界トップクラスのsiRNA導入効率および生分解性に起因する高い安全性を示した。

    研究の内容

    siRNAの実用化には優れた送達技術の開発がカギであるが、その送達効率には大きな伸びしろが残されている。また、実用性の観点では広い安全治療域を確保することも重要となる。さらに、特定の用途に限定されず、目的に応じた適切な製剤を提供可能なプラットフォーム技術の開発が強く望まれる。それらの実現のため、独自のpH感受性カチオン性脂質群を開発した。脂質ナノ粒子の体内動態に重要な因子である酸乖離定数の調節を実現し、標的に応じた分子設計を可能とした。また、新規脂質CL4H6を含む脂質ナノ粒子は肝細胞において世界トップクラスの効率で遺伝子発現抑制を誘導した。また、50%抑制投与量の約3,000倍もの投与量においても顕著な肝毒性は認められず、高い安全性が確認された。CL4H6はsiRNA送達後に速やかに分解除去された。

    佐藤 悠介 助教 Yusuke Sato
    博士(生命科学)
  • タンパク質代謝低下による新しい老化モデル

    加齢により様々な代謝の変化が生じます。いわゆる「代謝が低下」した状態は老化や生活習慣病、老化関連疾患の発症リスクを高めます。タンパク質代謝の低下により老化を示すマウスモデルを開発しました。

    研究の内容

    細胞内タンパク質の分解に働くプロテアソームは種を越えて細胞に発現し、生体機能の維持に重要です。老齢個体ではプロテアソーム活性が低下し、加齢によるプロテアソームの機能低下が老化や老化関連疾患の発症に関与します。本研究ではプロテアソーム活性が低下し、老化をきたすマウスモデルを作製致しました。本モデルに高脂肪食を負荷すると脂肪肝が増悪し、タバコ煙を負荷すると肺疾患をきたします。本モデルを応用することで、様々なヒト疾患の原因となるタンパク質の異常、ターゲット分子が解明できます。

    外丸 詩野 准教授 Utano Tomaru
    医学博士
  • ストレスによる病気の治療薬とバイオマーカーの開発

    「病は気から」の分子機構に迫る分子心理免疫学

    過労、不眠による突然死など社会的に広く問題となっている慢性的なストレスが、特定の神経回路の活性化を介して臓器障害と突然死をマウスに誘導する分子機構を明らかにしました。この系を利用して、ストレスに起因する病気の治療標的を探索できます。

    • 慢性ストレス負荷により室傍核(PVN)での交感神経が活性化(①)し,第3脳室,視床,海馬の境界部にある特定血管においてケモカインというタンパク質が産生され,血液内に存在する中枢神経系抗原を認識する自己反応性免疫細胞が血液脳関門を超えてこの特定血管周囲に集まり、微小炎症が誘導される。これが契機となり、新たな神経回路(②から⑤)が活性化し、胃・十二指腸を含む上部消化管での炎症が誘導されることで、心臓の機能不全により突然死が起こる。今回の研究による新たなブレークスルーは、「脳の特定血管での微小炎症が、新たな神経回路の活性化を誘導することで末梢臓器の機能障害が誘導されること」が明らかとなった点であり、ストレスゲートウェイ反射と呼んでいる。すでに様々な薬剤がこの実験系でテストされていて、消化管出血と突然死を防止する薬剤とその作用部位の例を示す。
      ストレスにて脳内特定血管で発現上昇する遺伝子群をすでに同定しており、その中で6つの遺伝子(C2CD4D、VSTM2L、VSTM2A、TMEM5、LY6G6C、ADRA2C)は、抗体を使った抑制によってストレス後の突然死が抑制された。

    研究の内容

    私たちは、ストレスと病気の関連を研究しています。最近、慢性ストレスを加えたマウスに中枢神経抗原に対する自己反応性T細胞を移入すると、マウスが突然死しました。死因は、ヒトと同様に胃・十二指腸の出血による心不全が原因でした。ストレス特異的な神経回路活性化にて脳内の特定血管に移入T細胞などが集まり微小炎症が誘導され、これを起点に活性化する新たな神経回路がこの胃腸障害・心不全を引き起こしました。これまで、分子機構が解明されているストレスの動物モデルは無く、本モデルは、ストレスに起因する病気の新たな薬剤のスクリーニングに有用です。さらに、この系を用いて、ストレス時に脳内特定血管で発現上昇する分子群を同定し、それら分子に対する抗体が突然死を抑制しました。また、現在、ヒトでも自己反応性T細胞のマーカー候補を同定しています。

    村上 正晃 教授 Masaaki Murakami
    医学博士
  • 未修飾シアリル化糖鎖および複合糖質の高感度・高分解能構造解析を実現するMALDIマトリックス

    シアル酸のカルボン酸部位を修飾することなく、シアリル化糖鎖及び複合糖質をイオン化し、シアル酸残基が脱離することなく高感度かつ高分解能(リフレクターモード)で解析可能なマトリックスを開発した

    • 従来のマトリックスを用いた解析結果
      (低感度かつピークが複雑化する)

    • 新規マトリックスを用いて同一サンプルを同一濃度で解析した結果(感度100倍以上を実現)

    • 本マトリックスを用いてTOF/TOF解析をするとシアル酸以外に還元末端側糖残基も優先的に開裂する

    • 疑似MS/MS/MS解析により糖ペプチド糖鎖の詳細な配列解析が可能となる

    研究の内容

    糖鎖および複合糖質のシアリル化(シアル酸の付加)は発生、分化、疾患、感染、免疫等の様々な生命現象に関与する重要なバイオマーカーである。MALDI(マトリクス支援レーザー脱離イオン化)法は簡便かつ高感度なソフトイオン化法であるが、未修飾のシアル酸を有する糖鎖はイオン化効率が低く、さらにシアル酸の開裂等によりスペクトルが複雑化するという問題が存在する。本技術では、従来のマトリックスに対する添加系を改良することにより、一切の修飾工程を経ることなくシアリル化糖鎖及び複合糖質を、シアル酸の脱離を抑制した状態で高感度・高分解能測定に成功した。開裂パターン変化と高感度化に伴い、TOF/TOF解析や疑似MS3解析等も超微量サンプルで実施可能となった。本法は化学修飾と分離工程が不要であり、反応追跡や迅速検体解析が可能となる。

    比能 洋 教授 次世代物質生命科学研究センター 副センター長 Hiroshi Hinou
    博士(工学)
  • 生物時計を考慮した健康的な生活リズムをデザインするための基盤研究

    生物時計を考慮した健康的な生活・労働環境の提言

    日本人は世界的にみても睡眠時間が短く、睡眠障害による経済損失は約6兆円/年と試算されています。当研究室の専門領域は、睡眠に深く関わる生物時計を研究対象とした時間生物学です。時間生物学研究を推進し、国民の健康に寄与することを目指しています。

    • 当研究室の研究ビジョン.生物時計を調節し健康的な生活を送るためには3つの時計を調節することが重要です。私たちが生来持っている生物時計、生物時計を調節する環境因子である太陽光を制御する環境時計、そして私たちの生活リズムを規定する社会時計です。しかし、私たちの社会を見渡すと、生物時計に逆らった生活をおくるものも少なくはなく、内的同調を保つようなサポートが必要です。

    研究の内容

    生物時計は、私たちが毎日昼間に十分活動し、夜間に良質な睡眠をとれるように行動(睡眠と覚醒のタイミング)と生体内の環境を調節する重要な生体戦略です。しかし、現代社会では夜間交替勤務、時差飛行、24時間労働等により生物時計に逆らった生活を余儀なくされるものも少なくありません。私たちが生涯にわたって健康な生活を送るには、生物時計の構造および機能を理解すると共に、ライフステージや各自の生活習慣に応じて生活リズムを積極的にデザインし、最適化していくことが求められています。当研究室では、光と運動が生物時計に与える影響のメカニズム、時間栄養学を応用した効果的な栄養食事指導法の開発、睡眠・生体リズムの季節変動と生理機能の関連性を明らかにするための研究を進めています。

  • カルニチンを用いた胸部外科術後の心房細動予防法の開発

    心臓弁膜症においては周術期のカルニチン内服が術後心房細動 (POAF) を抑制しうるかどうかを無作為割り付け多施設共同研究により明らかにする。肺癌および食道癌においては類似の先行研究がないため、単群介入試験を行う。

    • カルニチン内用液

    • 研究計画

    研究の内容

    胸部外科術後の心房細動(POAF)の頻度は高く、脳梗塞・心不全・感染症の増加につながり、入院期間の延長をもたらす点で問題となっている。唯一β遮断薬が有効とされるがその有効率は50%未満であり、副作用の点から使用できない場合も多い。脂肪酸代謝改善薬であるカルニチン製剤は近年、その抗炎症作用や脂肪酸代謝改善効果などから心筋梗塞後や冠動脈バイパス術後の不整脈抑制効果が報告されている。本プロジェクトでは、心臓弁膜症においては周術期のカルニチン内服がPOAFを抑制しうるかどうかを無作為割り付け多施設共同研究により明らかにする。肺癌および食道癌においては、単群介入試験により安全性とPOAF減少率の検討を行い、今後の無作為割り付け試験の検討に役立てる。

    新宮 康栄 講師 Yasushige Shingu
    博士(医学)
  • バイオ材料で作ったマイクロ・ナノパターン

    生体構造を模倣したバイオ系マイクロ・ナノパターンで
    細胞培養ツールや組織再生へ応用を目指す

    コラーゲンなどのバイオ材料や歯科材料を用いて、生体構造を模倣したマイクロ・ナノパターンを作製しています。パターン形状や材質の種類により細胞機能向上へと繋がります。新しい可能性を追求しながら細胞培養ツールや歯周組織再生への応用を目指します。

    研究の内容

    本研究ではナノインプリント法を利用し典型的なバイオマテリアルをパターン化しています。設計したマイクロ・ナノスケールの形状により細胞機能を制御し、新規細胞培養ツールや組織再生へと繋げたいと考えています。
    ●従来技術との比較: これまで例が少ないバイオ材料にて規則正しいパターンを作製することに特徴があり、新しい機能発現が期待されます。 (*従来:不規則・平面or工業的プラスチック)
    ●効果: 平面よりもパターン化により細胞付着数や伸展度合が大幅に向上します。溝形状では細胞を簡単に配列させることができます。それにより、細胞外マトリックス(ECM)の3D構築にも繋がります。
    ●今後: パターン化材料を平面だけでなく2.5次元、3次元へ展開し、さらに階層化することにより、生体に近い構造を持つ組織再生を目指します。

  • 腸内環境をパラダイムシフトするαディフェンシン

    医食同源の科学的理解から予防医療まで

    Paneth細胞が分泌するαディフェンシンは腸内細菌叢を制御し、排除と共生に深く関与する。食品、αディフェンシン、腸内細菌の三者が規定する腸内環境という視点から腸内環境を評価し、パラダイムシフトを興して疾病の機序解明や予防医療開発に繋げる。

    研究の内容

    単離小腸陰窩や三次元小腸上皮培養系であるエンテロイドを用いて、腸上皮細胞であるPaneth細胞の自然免疫 (αディフェンシン分泌)、腸内細菌との共生、再生・分化など多彩な機能に関わる分子機序を、共焦点レーザー顕微鏡やフローサイトメトリーなどの最先端分析手法を駆使して解明する。腸は生体において様々な臓器間ネットワークを形成しており、Paneth細胞の機能を中心に据えて腸内環境の仕組みを解析することで、腸内環境を制御することを可能とし、様々な疾病の予防策や治療法を創生する。腸からみれば「食」も「医薬」も同じであり、創生した知から産学・地域連携を通じて健康長寿社会の実現に貢献したい。

    綾部 時芳 名誉教授 Tokiyoshi Ayabe
    医学博士
    産学・地域協働推進機構
  • 光ファイバを利用した小型線量計の開発

    極微小シンチレータと光ファイバを組み合わせた
    超小型線量計を放射線治療・診断分野へ応用

    近年、X線透視による重篤な皮膚障害に対する被曝防護への関心が高まっている。本研究では、晩発性放射線障害予防を目的として、光ファイバの先端に極微小プラスチックシンチレータを取り付けた単純な構造をした、X線透視画像に写らない線量計を開発した。

    研究の内容

    X線透視を伴う血管内治療(IVR; Interventional Radiology)では、長時間にわたるX線透視を行われる。心筋梗塞などでは繰り返し手術を受ける可能性があるため、潰瘍などの重篤な皮膚障害が発生する可能性がある。従来の線量計は、透視に映るものや検出部分の体積が大きいなどの問題があった。特に、エネルギー依存性が測定の精度に影響を及ぼすため、小型でエネルギー依存性が少なく、かつ透視に映らない線量計は存在しなかったが、本研究にて開発を行ったSOF線量計は、センサー部分は生体と密度が近いためにX線透視下で全く映らないという特徴がある。また、現時点で60~150kVの範囲において感度変化5%以内を達成しているが、さらに感度変化を小さくするために、企業と共同でセンサー物質の改良を進めている。

    石川 正純 教授 Masayori Ishikawa
    博士(エネルギー科学)
  • ポリフェノールによる水の凍結抑制

    ポリフェノールによる過冷却促進効果の応用を目指して

    一部のポリフェノールが氷核物質と共存すると、氷核活性を抑制して結果的に過冷却状態を維持します。この凍結抑制効果(過冷却促進活性)のメカニズムの解明やいろいろな条件下での凍結防止を試みています。

    研究の内容

    ヨウ化銀や氷核細菌は、水の不均質核生成を促して水の凍結を促進します。このような氷核活性に対して抑制効果を示す化合物は、これまでにもいくつか報告されていますが、本研究で用いているポリフェノールは比較的低分子であり、共存する氷核物質の活性を数mMという低濃度で抑えて水溶液の凍結温度を数度低下させることが可能です。また、振動などの物理的刺激が加えられても過冷却を維持する効果もあります。このようなポリフェノール類は様々な植物にも含まれ、それらを産業利用するための条件検討を重ねています。例えば、動植物細胞や食品などの氷点下保存や農作物の凍霜害防止などは興味深いテーマです。凍結抑制効果はいろいろな要因の影響を受けるので、既存の凍結抑制物質の併用も含め、応用の可能性を検討し、氷核活性を阻害するメカニズムの解明も試みています。

    荒川 圭太 准教授 Keita Arakawa
    博士(農学)
  • 受容体結合プロレニン系を標的とした
    新規阻害薬の開発

    慢性炎症・血管新生などの病態形成に関与する
    (プロ)レニン受容体を阻害する医薬品の開発

    糖尿病網膜症をはじめとする網脈絡膜疾患の病態形成におけるレニン・アンジオテンシン系(RAS)の関与の解明や、さらにRASの上流にあたる(プロ)レニン受容体に対する阻害薬の開発から基礎研究に至るまで、広い視野に立った取り組みを行っています。

    • 網膜受容体結合プロレニン系(網膜RAPS)と硝子体レニン・アンジオテンシン系(硝子体RAS)

    研究の内容

    加齢黄斑変性や糖尿病網膜症は、主要な中途失明原因の網脈絡膜疾患であり、生活習慣病に合併した慢性炎症性疾患と位置づけられています。しかしながら、未だ根本的な治療法の開発・疾患発症機序の解明には至っていません。我々は、これまでに生活習慣病での臓器障害において受容体結合プロレニン系(RAPS)が炎症・血管新生病態の上流で疾患の分子病態を制御していることを報告してきました。そこで現在我々は、受容体結合プロレニン系の中心に位置する(プロ)レニン受容体を標的にして、網羅的な低分子化合物スクリーニングや医薬分子設計法などの技術を用いた創薬を視野に入れた基盤研究を展開しています。さらに疾患動物モデルを用い、(プロ)レニン受容体の機能解明、および生理的機能への影響を最小限にしながら病態への早期介入治療戦略の確立を試みています。