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消化管での栄養素認識機構の解明
食品ペプチドによる消化管内分泌系への作用を介した血糖制御
化管で栄養素を感知する内分泌細胞から分泌されるホルモンは、食後即座に様々な生理応答を調節します。このメカニズムを研究する中で、食品ペプチドが消化管ホルモンGLP-1の分泌を促進し、血糖上昇を抑制できることを動物試験で明らかにしました。
研究の内容
消化管で栄養素を認識する消化管内分泌細胞より放出される各種消化管ホルモンは、食後の様々な生理応答を調節する重要な役割を有します。私たちは、抗糖尿病ホルモンとして知られる消化管ホルモンGLP-1に着目し、これの分泌を強く促進する食品ペプチド(トウモロコシ由来)を見いだしました。このペプチドをラットに経口投与することで、GLP-1分泌が促進され血糖上昇が抑制されることを明らかにしました。私たちの研究では、このペプチドがどのように消化管内分泌細胞に認識されるかを解明すること、様々な食品成分により消化管ホルモンの分泌をコントロールして、食後血糖や食欲を制御することを目指しています。
比良 徹 准教授 Tohru Hira博士(農学) -
魚類の卵形成のしくみを理解し、応用研究に活かす
養殖技術の向上、生態・環境調査技術の開発
魚類の仔稚魚の成長は、主に卵内に蓄積された物質に依存します。従って卵構成成分の合成や蓄積は卵質を左右する重要な過程です。私たちは、この過程の詳細や制御機構(卵形成のしくみ)を研究しています。また、このしくみを利用した応用研究を行っています。
研究の内容
魚類の卵は、タンパク質を中心に、脂質、糖、ビタミン類、ホルモン類などの様々な物質を「卵黄」として細胞内に蓄えながら急速に成長します。これらの卵黄物質は、仔稚魚の質に影響する大切な栄養源です。また、卵の成長は様々な生体内分子、例えば遺伝子・タンパク質・ホルモン等が密接に働き合うことで進行し、その様式は魚の種類により様々です。さらに、光や水温等の環境要因はこれら体内因子のプロファイルに影響を与え、卵成長を制御します。私たちは、多種多様な魚の卵が構築される過程を、免疫生化学・分子生物学・細胞生物学などの生命科学の手法を用いて詳細に比較解析しています。一方、これらの基礎研究を基に、「環境ホルモン汚染のモニタリング」、「魚卵の種判別法の開発」、「魚の簡易雌雄判別法の開発」などの応用的研究も行っています。
平松 尚志 准教授 Naoshi Hiramatsu博士(水産学) -
超偏極13C MRI遺伝子変異イメージング
代謝MRIにより腫瘍内の遺伝子変異を非侵襲的に可視化
癌治療の成果は、癌細胞の持つ遺伝子変異の種類に大きく左右される。遺伝子変異がもたらす特徴的な代謝変化を指標に、最新の代謝MRIを用いて非侵襲的に変異遺伝子を特定する分子イメージング技術を開発している。
研究の内容
・超偏極13C核磁気共鳴画像(MRI)は13C標識した任意の化合物のMRI信号を一時的に数万倍に増幅することで、その生体内における代謝反応をリアルタイムに可視化するMRIの最先端技術である。PET/CTのような放射線被曝を伴わず、光学イメージングでは困難な体深部からの信号の取得が可能な“夢の分子イメージング技術”として期待されている。
・細胞は遺伝子変異の蓄積により癌化し、変異の種類は癌治療への応答性を大きく左右する。癌化をもたらす遺伝子変異には特徴的な代謝変化を伴うものが多く、︎超偏極13C MRIにより特定の代謝変化を見ることで、非侵襲的に腫瘍内の変異遺伝子を推定することが可能となる。松元 慎吾 教授 Shingo Matsumoto薬学博士 -
非翻訳領域配列の導入によるタンパク質翻訳効率改変
ウイルスを模倣することによって、組み換えタンパク質の
発現効率を3ケタ増減させる細胞1個当たりのタンパク質発現効率を現在の100倍に上げることにより、CHO細胞などを用いた組み換えタンパク質作製効率飛躍的に上昇させ、遺伝子工学技術にパラダイムシフトをもたらすことを目的としています。
研究の内容
ヒトアデノウイルスは古くから遺伝子導入に利用され、安全性が確認されたウイルスベクター系の代表例ですが、野生型アデノウイルスは感染時に宿主のタンパク質発現をシャットダウンし、自己の後期タンパク質を優先的かつ爆発的に発現するというすぐれた性質についてはあまり注目を集めていません。しかし、アデノウイルス自体には病原性があり組み換えタンパク質精製系にウイルス粒子を使用するのは安全性の面で大きな問題が残ります。そこで、ウイルス遺伝子中のリーダー配列を最適化し組み換えタンパク質の上流に非翻訳領域配列として組み込むことにより、ウイルスの翻訳系を模倣して、既存の発現ベクターからの翻訳効率を100倍以上にすることを目指しています。逆に終止コドン下流非翻訳領域を改変し発現量を数十分の一にすることも可能です。
安田 元昭 特任准教授 Motoaki Yasuda歯学博士 -
ミトコンドリア標的型ナノカプセル (MITO-Porter)
ミトコンドリアに薬物・タンパク質・核酸を導入する技術
ミトコンドリアは疾患治療、美容・健康維持、ライフサイエンスの発展に貢献するオルガネラとして注目されています。私たちはミトコンドリア標的型ナノカプセル(MITO-Porter)の開発に成功しており、本ナノカプセルの実用化を目指しています。
研究の内容
本研究のミトコンドリア標的型ナノカプセル(MITO-Porter)は、細胞膜およびミトコンドリア膜を通過し目的分子をミトコンドリア内部に届ける事が可能です。機能素子を用いた従来技術では送達分子の大きさや種類を著しく制限しましたが、目的分子を封入するMITO-Porterを用いた戦略では分子種によらないミトコンドリア送達を実現します。
GFP(緑色)を内封したMITO-Porterを調製し、細胞内を蛍光顕微鏡観察したところ、ミトコンドリア(赤色)と重なり合った黄色のシグナルが多数観察される、ミトコンドリアへの効率的な分子送達を確認できました。また、既存の核酸導入試薬(核・細胞質を標的)では不可能であったミトコンドリアへの遺伝子・核酸導入にも成功しています。さらに、生体に適応可能なナノカプセルの開発も行っています。山田 勇磨 教授 Yuma Yamada博士(薬学) -
根で植物をコントロールする
根の再生を制御する方法
多くの植物にとって根は必要不可欠な器官であり、根の傷害は速やかに回復します。これは根と地上部のバイオマス比も一定値を保つ仕組みが働くためです。本研究室では根の再生メカニズムを明らかにし、バイオマス比をコントロールできる技術の可能性を示した。
研究の内容
盆栽などの園芸や果樹栽培では広く根の剪定(根切り)が行われ、経験的に根をコントロールすることで地上部をコントロールしてきました。これは根と地上部のバイオマス比が一定値を保つことを経験的に利用した手法です。私たちが発見したYUCCA9は根切りにおける根の再生に必要な植物ホルモン、オーキシンを合成する遺伝子でした。研究の過程で薬理学的に根の再生を阻害する薬剤の組み合わせや、遺伝的な形質によって根の再生が起こりずらい植物も作出することができました。
根の再生は陸上植物で広く見られる現象であり、栽培品種についても本研究を応用することで地上部のバイオマスを増加、減少させることが可能になり、農業作物、園芸品種において高収率、労働集約、コストコントロール、高付加価値が期待できると思われます。綿引 雅昭 准教授 Masaaki Watahiki博士(地球環境科学)