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UPDATE 持続可能な社会へ向けて北極域・雪氷圏の大気汚染(エアロゾル・PM2.5)・森林火災・雪氷・気候変動を繋ぎ、その関係性を解き明かす!
森林火災・大気汚染・雪氷・気候変動を繋ぐ北極域・雪氷圏を中心に活躍する大気環境科学の研究者
森林火災とその大気汚染(エアロゾル・PM2.5)、これらの発生要因分析と予測や、影響評価(気候、健康、経済など)に関する多角的な研究を観測からデータ解析・モデリングまで様々な研究手法で行っています。
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Yasunari et al. (2018, Sci. Rep.)の図1b。NASAのMERRA-2再解析データを使って算出した2014年7月25日の日平均PM2.5濃度。白丸は、札幌市の場所。
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Yasunari et al. (2022, J. Environ. Manage.)のプロトタイプからアップデートされた商用版の寒冷地仕様PM2.5測定装置。株式会社タナカ(http://kktanaka.co.jp/products)から誰でも購入可能(鉄箱+PM2.5センサー部分は別途入手が必要)。
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Yasunari et al. (2021, Environ. Res. Lett.)で発見された西欧熱波とシベリア・亜寒帯北米(アラスカ・カナダ)の森林火災を同時に発生させうる気候(大気循環)パターン:高気圧性循環が北極の周りを取り囲むように配置するようなパターンであったことからcircum-Arctic wave(CAW)パターンと名付けられた。図は論文のFig. 9の日本語版(作製は、現・「理系漫画制作室株式会社」:https://www.sciencemanga.jp/)。
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Yasunari et al. (2024, Atmos. Sci. Lett.)で、2022年夏に、PM2.5測定装置(商用版)を使って、北極域のグリーンランド北西部カナックで初めて現地の大気環境、および野外廃棄物焼却時のPM2.5濃度を測定(図は、論文のGraphical Abstract)。
研究の内容
森林火災のニュースを近年頻繁に聞くようになりました。大規模な森林火災は発生域だけでなく、その風下域まで大気汚染(PM2.5)を輸送し、住んでいる人々に影響を与える可能性があります。そのため、森林火災や発生する大気エアロゾル(大気汚染)の発生要因の特定、その後の多様な影響評価(気候・健康・社会・経済的影響など)が求められています。また、得た知見を元に、これらの予測を可能にすることが発生域から風下域に住んでいる人々への対策の観点から極めて重要です。上記の目的のため、寒冷地仕様の持ち運び可能なPM2.5測定装置の開発とPM2.5等の大気質の多地点観測、大規模全球データ(衛星、モデル、再解析データ等)の解析、機械学習予測など様々な手法を駆使して研究を進めています(NASAとの共同研究や、異分野融合研究もしています)。
安成 哲平 特任准教授 Teppei J. Yasunari博士(環境科学) -
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NEW 北海道雑草種のDNAバーコーディングと群集評価技術への応用
・次世代シークエンサーにより集草サンプルから雑草群集を簡易的に評価
・雑草分布状況の大規模調査に最適雑草管理を効率的に行うためには、その発生や分布パターンを把握する必要がある。本チームでは、北海道の主要雑草種についてDNAデータベースを構築し、次世代シークエンサーを用いた新しい雑草群集の評価法の確立を目指しています。
研究の内容
札幌・帯広から収集した主要雑草種(約50種)から全DNAを抽出し、葉緑体DNAにある可変性領域の塩基配列データベースを構築し、北海道の主要雑草種の識別に有効なPCRプライマーセットを設計した。圃場より収集した雑草の混合サンプルから抽出したDNAを識別プライマーによりPCRで増幅した後、MiSeq(イルミナ社)により塩基配列を読み取り、データベースと照合することにより、サンプル内の雑草種を同定する手法を確立した。また、各DNA断片のカウントデータから、集草内の各種雑草のバイオマス比の推定も可能である。
平田 聡之 助教 Hirata Toshiyuki -
NEW シードル加工用の種子無しリンゴの育種基盤の構築
植物遺伝資源の多様な特性を理解し、植物育種への応用を考える
植物の三倍体は一般的に不稔になると考えられている。しかし、予備試験においてリンゴの三倍体が種子を形成していることがわかった。本課題ではリンゴの三倍体品種に形成される種子を利用し、その後代の獲得を試みる。
研究の内容
果樹生産は栽培・管理に多大な労力と時間を要する。これまでは果実の高品質化を目指してきたが、担い手不足が顕在化していることから、作業の効率化と収益性向上が望まれている。近年、シードル生産に注目が集まっている。リンゴの搾汁の際に種子の混入がシードルの品質低下を招くが、種子無しリンゴの育成は困難である。その要因がリンゴゲノムの頑強性にあると考え、異数体作出による完全種子無しリンゴの育種基盤を構築する。
星野 洋一郎 教授 Hoshino Youichirou -
NEW 環境ー植物ー土壌
植物を通して環境と土壌を考える
土壌からの養分(必須のみならず不要、有害元素も含めて)移動には植物and/or微生物の生物的な作用が重要です。また、環境変動は植物を通して土壌にも影響を与えています。この相互作用の解析を通して新たな栽培技術の創出を目指しています。
研究の内容
スライド1はルーピンというマメ科飼料作物の根が土壌に対してどのように働きかけを行っているのかを解析した内容です。ルーピンはクラスター根という特殊な根を発達させて、有機酸などの化合物を土壌に放出し、これらが土壌に作用して様々な元素の可溶化に貢献していると考えられています。そのメカニズムを植物の代謝応答、土壌鉱物の変化、そして介在している微生物機能の解析を通して複合的に明らかにすることを目指しています。
スライド2は福島県内で取り組んでいる植物による放射性セシウム吸収制御の試験風景です。作物種によって土壌からの放射性セシウムの吸収能には違いがあることが知られてはいるものの、そのメカニズムは明確にはなっていません。これを明らかにすることで、対策技術に結びつけることを目指しています。信濃 卓郎 教授 Shinano Takuro農学研究院 基盤研究部門 生物機能化学分野 -
NEW 有機性排水浄化のためのハイブリッド伏流式人工湿地
畜産排水などの有機性排水を、低コストで効率よく持続的に浄化するシステムです。
高濃度汚水を対象に、寒冷地での実用化を実現しました。世界でもトップクラスの能力です。研究の内容
伏流式人工湿地はヨシ等を植えた砂利や砂の層で汚水をろ過して浄化する方法です。
伏流式には汚水を表面から散布して上から下へ流す好気的な鉛直流式と、浅い地下水としてゆっくり水平方向に流す嫌気的な水平流式があり、それらを組合せたハイブリッド式は特に窒素浄化能力に優れています。
ヨシなどの植生は、表面の目詰まりを軽減し、人工湿地内の生態系を支えて浄化能力を高めています。井上 京 教授 Inoue Takashi -
NEW 低酸素水耕システムや過湿ポット栽培を利用した作物耐湿性の簡易サーベイ法
短期間、幼植物を特別な環境で育てることで、耐湿性に優れた優良な育種母本や品種を探します
一般的に湿害は作物収量や商品価値を著しく損なわせ、特に耐湿性の弱い品目を水はけの悪い畑で栽培するとその被害は甚大となります。本研究では簡易な栽培装置を用いて、短期間で作物の耐湿性サーベイが可能な手法を考案しました。
研究の内容
作物苗をポット栽培し、生育途中の5-10日間に、根域過湿条件になるようビニルで細工し、作物のバイオマス変化を追います。これにより、湿害が起き得る過湿期間や、湿害が起きやすい生育段階の割り出し、同品目内の耐湿性の品種間差をサーベイできます。
ブロッコリーや加工用トマトで有効な手法でした。
また、幼植物体を短期間、水耕溶液中に窒素をローディングして酸素分圧が低い状態とした水耕栽培システムで育成し、溶存酸素量が豊富な対照区と比べて根系のデザイン(長さ・太さ・分岐数など)やバイオマス量がどのように変化しているのかを調査します。これにより、根域低酸素耐性を有する品種を簡易にサーベイする試みです。ダイズの場合、従来言われている「耐湿性」とこの「根域低酸素耐性」には密接な関係性が示唆されます。実山 豊 講師 Jitsuyama Yutaka -
NEW 無機-バイオ界面に着目した新規材料作製
シリカ合成酵素、バイオミネラル、無機-有機複合材料、自己修復材料
我々は生物が創り出す鉱物(バイオミネラル)に着目し、それを人工的に模倣した無機材料作製技術を開発しています。また、無機物とバイオ分子の界面に形成される親和力を利用した新たな金属分離技術および吸着・接着技術についても取り組んでいます。
研究の内容
1.シリカ合成酵素を用いた新規ハイブリッド材料作製
シリカは酵素によって合成されており、シリカ合成酵素はシリカテインと呼ばれています。シリカテインを用いることで、常温・中性pHという温和な条件下でシリカの重合を行うことが可能なため、バイオハイブリッド材料の作製ツールとして利用できると思われます。我々は、タンパク質融合技術により、シリカテインを可溶化した状態で長期間安定に存在させることに成功し、様々な複合材料の作製のツールとして用いています。
2.バイオ界面に着目した新たな金属分離技術と固体吸着技術の開発
生物は様々な力(相互作用)を用いて、固体表面に接着しています。我々はその力をうまく利用することで、紙(セルロース)を用いた金属イオン捕集技術や、特定の金属だけに吸着・接着する技術の開発を行っています。中島 一紀 教授 Nakashima Kazunori -
NEW 稲わら等農業未利用残渣のエネルギーサプライチェーン
稲わらなどの農業未利用残渣を利用形態に応じた燃料に変換し供給するシステム構築
燃料利用するのが困難であった稲わらなどの農業残渣を、保管・運搬・エネルギー利用に適した形態へ変換する“半炭化技術”の開発を行いました。燃焼時のクリンカ軽減およびPMの排出抑制に寄与します。
研究の内容
・稲わらペレット製造技術(木質と稲わら混合ペレット含む)
・半炭化(トレファクション)による燃料品質の向上と利用用途拡大(発熱量UP、微粉化可能、火力発電所及び木質バイオマス発電所での混焼)
・サプライチェーン設計とコスト最適化石井 一英 教授 Kazuei Ishii博士(工学) -
環境DNAを用いた海洋生物多様性の把握
環境DNAから,魚類などの海洋生物の生息を把握し,生物多様性情報を得る
研究の内容
水や底泥中に含まれる環境DNAを調べることで,そこに生息する生物を把握することができる。河川,沿岸域から外洋に至る様々な環境でDNAを取得し,生物の分布や量を推定する。それにより生物多様性情報を得ることができる。得られた情報は,COP15で採択された30by30による海洋保護区の選定に用いたり,OECMの認定に役立てたりすることができる。
笠井 亮秀 教授 Akihide Kasai博士(農学) -
撹乱地の生態系復元
自然・人為により撹乱を受けた生態系をファシリテーションすることでエコフレンドリーな復元を図る
ファシリテーションとは、ある植物の定着が他種の侵入定着を促進する現象を指す。噴火・火災・津波・採掘等の大撹乱により壊滅的被害を被った生態系において、そのようなファシリテータを検出し導入することで迅速かつエコフレンドリーな生態系復元を図る。
研究の内容
大規模撹乱後の生態系復元は急務であることが多いが、撹乱後の劣悪な環境では、なかなか目的とする植物の定着が進まないことが多かった。ファシリテータとは、その種が定着することで他種の定着を促進する効果のある植物種のことを指す。各撹乱地において、ファシリテータを検出し、それらの種を導入することで目的とする種の侵入定着が促進できれば、生態系復元は安価かつ迅速化でき、人為も軽微となるため、エコフレンドリーな生態系復元技術となる。
これまで、サロベツ湿原泥炭採掘跡地ではミカヅキグサが、渡島駒ヶ岳ではミネヤナギが、ファシリテータとして機能していることを明らかとしており、さらに、ファシリテータ導入手法として、微地形改変が有効であることを明らかとしている。露崎 史朗 教授 Shiro Tsuyuzaki理学博士 -
ナノ微粒子を用いる炭素資源由来の窒素の無害化除去
Fuel窒素の事前除去と高温ガス精製へのナノ微粒子の利用
地球環境に調和した炭素資源の高度利用法の原理確立は、次世代に向けて最重要な研究テーマの一つである。本研究では、ナノスケールの金属・金属酸化物微粒子を用い、炭素資源をクリーンエネルギーに効率よく変換できる触媒プロセスの開発を目指している。
研究の内容
炭素資源中の窒素(Fuel-N)は燃焼時にNOxやN2Oとして排出され、また、高温ガス化では主にNH3に変化し後段のガス燃焼時のNOxソースとなる。本研究では、燃焼やガス化の前段の熱分解過程においてFuel-Nを無害なN2に変換する方法の開発に取り組み、イオン交換法で担持したCaイオンは熱分解時にCaOナノ粒子に変化し、N2生成に触媒作用を示すことを見出した。
また、褐炭中に元々含まれるFeイオンや褐鉄鉱中に多く存在するFeOOHは加熱過程で容易に金属鉄ナノ粒子となり、この触媒上でNH3、ピリジン、ピロールの分解反応を行うと、N2が選択的に生成することを見出した。このような含N種は石炭ガス化で生成する粗ガス中に含まれるので、これらの化合物の除去を目的とした新しい高温ガス精製法の開発への展開を図っている。坪内 直人 准教授 Naoto Tsubouchi博士(工学) -
バイオマス由来の環境にやさしい海洋生物付着防止化合物
フジツボなどに対する有害な海洋生物付着阻害剤が海洋環境汚染の原因となっており、安全な代替品開発が求められている。私たちは、バイオマス由来の化合物を合成することで強力かつ低毒性化合物の創出に成功している。更なる最適化も可能である。
研究の内容
人類の海洋利用(船舶や発電所の冷却管など)は不可欠であるが、フジツボなどの付着生物によって船舶の燃費悪化や詰まりなどの機能低下を引き起こされる。機能低下を防止するために、有機スズ化合物が使用されてきたが毒性のため使用が禁止され、代替品の開発が望まれている。私たちは、ウミウシなどの海洋生物が他の生物の付着から防御するために用いる化合物に着目している。化合物の合成の結果、付着防止に重要な官能基(付着防止ユニット)を見出した。この官能基を安価な海洋生物由来のバイオマスに短工程で導入し、合成品の付着阻害試験(タテジマフジツボのキプリス幼生)を行ったところ、非常に強い付着阻害活性と極めて弱い毒性を併せ持つことを見出した。現在、類似化合物の合成や更なる機能を付与する研究を展開している。
梅澤 大樹 准教授 Taiki Umezawa博士(理学) -
外来種アライグマ対策コスト削減のための
巣箱型ワナ開発低密度状況で効果的・効率的防除手法を目指して
日本に侵入した外来種の防除対策について、対象種の生態・行動学的特性に合わせ、かつ人間社会の状況に対応した効果的防除技術・戦略の提案を目的に研究を進めています。本研究では、アライグマの樹洞営巣習性を応用した効率的な捕獲ワナを開発しました。
研究の内容
北海道を始め全国的に増加し、被害をもたらしている外来種アライグマの防除対策は喫緊の政策課題であり、対策現場では長期化する防除事業のコスト削減が最重要課題となっています。従来の捕獲方法は、誘因餌を用いた箱ワナによる捕獲だけに依存しており、他の動物の混獲予防と誘因餌の交換のために、捕獲の有無にかかわらず毎日の見回り・点検作業を必要とし、低密度化した後でも作業量は低減しないという問題がありました。本研究で開発したアライグマの樹洞営巣性という習性を応用した巣箱型ワナは、誘引餌が不要で混獲も少なく、毎日の点検が不要で防除コストを極めて低価格に抑えることのできるワナになっています。さらに、捕獲情報を電波によってオフィスで受信できるシステムを付与することで、少人数で広範囲な防除対策を低予算で実施することを可能にしました。
池田 透 教授 Tohru Ikeda文学修士 -
社会技術システムとしてのバイオマス利活用に関する研究
地域循環によるバイオエネルギー普及を目指して
循環計画システム研究室では、生ごみ、下水汚泥、家畜ふん尿、林地残材や稲わら等のバイオマスを地域内で利用し、地域分散型のバイオエネルギーを創り出すための、技術と社会の仕組み作り(社会技術システム)に関する研究をしています。
研究の内容
本研究室では、バイオマス(生ごみ、下水汚泥、家畜ふん尿、林地残材、稲わらなど)から燃焼やメタン発酵によって回収されたエネルギーを、地域内に存在するエネルギー需要者(公共施設や介護・福祉施設、ビニールハウス等の農業施設、食品工場等)と結びつけることにより、環境と地域振興(経済)の両方に貢献できるシステム提案(実験やフィールド調査に基づく計画、モデリング、評価)を行っています。さらに、民間企業の協力を得て、寄附分野循環・エネルギー技術システム分野(古市徹客員教授、藤山淳史特任助教、http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/mces/)とも連携し、エコで安全なエネルギーに関する研究を行っています。
石井 一英 教授 Kazuei Ishii博士(工学) -
硝酸態窒素汚染水の触媒法浄化
硝酸態窒素を還元分解する高性能触媒
硝酸態窒素による地下水汚染が問題になっています。水中の硝酸態窒素を常温で水素ガスと反応させて窒素ガスへと分解する高性能な固体触媒を開発しました。この触媒を組み込んだ浄化装置を使って、汚染地下水を浄化することに成功しました。
研究の内容
硝酸態窒素による地下水汚染が、全国的に問題になっています。私は、地下水中の硝酸態窒素を窒素ガスへと分解する、高性能な固体触媒を開発しました。開発触媒を組み込んだ浄化装置を使って、実際の汚染地下水を浄化することに成功しました。
硝酸態窒素含有水の処理は、嫌気処理と好気処理を周期的に行う生物処理が主流であるが、一般に処理装置は大型で操作も煩雑です。開発した触媒法浄化装置は、非常にコンパクトかつ煩雑な操作を必要せず、温度を制御した触媒反応器に、水素ガスと汚染水を流すだけで汚染水が浄化できます。神谷 裕一 教授 Yuichi Kamiya博士(工学) -
膜ファウリングを引き起こす多糖・タンパク質の構造解析
次世代の水処理技術として注目されている膜処理の普及を阻んでいるのが膜透過性能の劣化(膜ファウリング)である。本研究では、膜ファウリングの合理的制御に向けて膜ファウリングの主因となる多糖類やタンパク質の構造解析を世界に先駆けて行った。
研究の内容
膜ファウリング(膜透過性能の低下)は、微生物が生産する多糖類やタンパクが主因となって発生する。しかしどのような多糖類・タンパク質が重要であるのかという点は不明のままであり、効率的な膜ファウリング制御手法の開発が遅れている。本研究では、レクチンアフィニティクロマトグラフィーを用いてファウリング多糖を集積精製した後に部分加水分解を施し、MALDI-TOF/MS分析を行った。MALDI-TOF/MS分析で検出されたピークをデータベースと照合することで、多糖の構造およびその起源となる微生物を推定できた。タンパク質についても、膜ファウリング物質を精製した後に二次元電気泳動を行って分離し、切り出したスポットのアミノ酸配列を読めるようになっている。こちらも、データベースと照合してその構造と起源を推定することが可能である。
木村 克輝 教授 Katsuki Kimura博士(工学) -
簡易病原菌測定装置
キットにサンプルを添加するだけで病原菌を測定可能
測定キットにサンプル(下水、廃水、食品抽出液、飲料水)を0.1mL添加し、装置に設置するだけで、早ければ1時間、遅くても12時間以内に大腸菌、大腸菌群、腸球菌の濃度を測定できる技術を開発しました。
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図1 キット(マイクロプレート)に大腸菌を含むサンプルを入れ、培養した後のブラックライト下の写真。大腸菌が含まれていたサンプルが添加された場所(穴、ウェル)だけに青色の蛍光が見られる。蛍光を発していないウェルは添加されたサンプルには大腸菌がいなかったことを意味する。
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図2 縦軸はキットを装置に設置し、蛍光強度を10分間隔で測定し、蛍光強度がある閾値を超えるまでに要した培養時間(陽性時間と称する)、横軸は市販のキットで測定した大腸菌濃度を示す。大腸菌濃度と本技術で求めた陽性時間に直線関係が見られた。この事から、本技術は市販のキット(1サンプルの測定コストは約1000円)の代わりとなる事が分かった。
研究の内容
現在病原菌の測定には、寒天培地を作る、多量のサンプルを何度も希釈する、24時間培養する、など、多大な時間と労力が必要です。我々は、液体サンプルや食品抽出液を0.1mL注入するだけで大腸菌、大腸菌群、腸球菌といった病原細菌(糞便汚染指標細菌)を測定できるキットを開発しました。現在の一般的な細菌測定技術と比べると、サンプルを溶液と混合するだけの極めて簡便な技術です。細菌濃度は蛍光色素を使って測定されます。蛍光色素は液体が濁っていても測定できるので、廃水や食品からの抽出液などの濁ったサンプルでもいかなる前処理もせずに直接各種細菌濃度を測定することができます。
佐藤 久 教授 Hisashi Satoh博士(工学) -
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アルミノ珪酸塩によるセシウムの捕捉・難溶性態化
除染廃棄物等に含まれるセシウムの
アルミノ珪酸塩(アルカリ長石)による捕捉焼却底灰中の難溶性態セシウムは、特定の鉱物表面の非晶質相に濃集しており、この鉱物はアルカリ長石であった。この捕捉現象を除染に伴って発生する除去土壌や廃棄物等に利用し、長期の保管においてもセシウムの溶出を抑制する技術の開発を行っている。
研究の内容
焼却底灰中のセシウム(以降Cs)が難溶性であるのは、Csがアルカリ長石の一つである微斜長石表面に形成される非晶質相に強固に捕捉されるためである。純粋な微斜長石に炭酸Csならびに塩化Cs等のCs塩を添加し加熱すると、極めて高い割合でCsが捕捉され、難溶性態化する(図1)。本過程で捕捉されたCsはフッ酸でなければ抽出できない程に強固に固定される。微斜長石を合成するの試薬を用いても同様のCs捕捉が起こる(図2)。そこで本研究では、この微斜長石等(アルミノ珪酸塩)によるCsの捕捉現象を、除去土壌や除染廃棄物の減容化熱処理に伴って生ずるCs濃縮物(Cs高濃度飛灰等)に適用し、最終処分される廃棄体でのCsの移動性を極力低下させる技術を確立することを目指している(図3)。
東條 安匡 准教授 Yasumasa Tojo工学博士 -
液中微粒子の集団性を利用した沈降・拡散挙動の制御
粒子の沈降挙動を自由自在にコントロールする
懸濁液中に濃度差が存在することによって現れる粒子の集団性を上手く利用して、沈降速度を促進させたり、複雑流路中における粒子の分散挙動をコントロールするような技術を紹介します。
研究の内容
濃度差によって生じる液中微粒子の集団性を上手く利用して、沈降速度や分散挙動を能動的に制御する技術を提案します。不均一に分散した粒子の沈降形態は、懸濁条件を変えることによって集団的な挙動が見られるようになります。この集団的挙動に密接に関連する濃度界面近傍の粒子の挙動を理解するとともに、それを積極的に利用することによって、各種工学プロセスにおいて重要となる沈降促進、分散制御、輸送効率の向上などを目指しています。
原田 周作 准教授 Shusaku Harada博士(工学) -
宇宙からの海洋性植物プランクトン探査
人工衛星を用いて海洋の植物プランクトンの分類探査と定量化技術の開発
地球観測衛星を用いて、海洋に生息する浮遊微細藻類(植物プランクトン)を人工衛星より遠隔探査する方法を開発しています。現在、遠隔探査としては世界で最も多い分類グループ数(11グループ)を定量観測する方法を研究しています。
研究の内容
海洋の植物プランクトンは、魚類生産に必要な生物エネルギー生産を支える一次生産者であり、異なる種類の植物プランクトン間の存在比は異なる生態系構造(従って異なる生物資源)の指標となると考えられます。衛星探査技術への応用により、異なる生態系構造が、世界中のどこで、いつ、どのように変動しているかといったことが分かるようになり、結果的として、効率的な生物・水産資源の探査や評価、管理が可能になると期待されます。
平田 貴文 特任准教授 Takafumi HirataPh.D.