北海道大学 研究シーズ集

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14. 海の豊かさを守ろう:16件

1頁の掲載件数 20 50 改頁しない SDGs別アイコン凡例
  • 1. 貧困をなくそう
  • 2. 飢餓をゼロに
  • 3. すべての人に健康と福祉を
  • 4. 質の高い教育をみんなに
  • 5. ジェンダー平等を実現しよう
  • 6. 安全な水とトイレを世界中に
  • 7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 8. 働きがいも経済成長も
  • 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 10. 人や国の不平等をなくそう
  • 11. 住み続けられるまちづくりを
  • 12. つくる責任、つかう責任
  • 13. 気候変動に具体的な対策を
  • 14. 海の豊かさを守ろう
  • 15. 陸の豊かさも守ろう
  • 16. 平和と公正をすべての人に
  • 17. パートナーシップで目標を達成しよう
  • 農水産業のDXを支える中心温度測定用食肉模擬装置

    実肉を使用しない食肉中心温度測定用デバイス

    食用動物の食肉を対象に、その中心温度を把握するための温度測定装置を開発した。本装置のプローブ周囲には、魚・牛・豚・鶏等の食用動物の食肉を模擬した比熱及び形状を有する材料を配置しており、実際の食肉に近い中心温度変化をリアルタイムで取得できる。

    • 図1 開発中の中心温度測定用食肉模擬装置の構成図

    • 図2 開発中の中心温度測定用食肉模擬装置と鮮度評価システムの関係

    研究の内容

    一般的に食肉の貯蔵温度管理は、食材が貯蔵されている貯蔵庫内の温度を計測し、温度管理を行っている。しかし、食肉を高鮮度状態に保つためには、その中心温度を計測し温度管理をすることが重要であるが、現状のサーモグラフィーカメラや温度センサーでは、その表面温度しか測定ができない。
    そこで、当研究室では、食用動物の食肉を模擬した比熱及び形状を有するプローブを作製することにより、食肉の中心温度変化を模擬できる装置を開発した。これにより、食肉を傷つけることなく、測定したい食肉の中心温度を取得することが可能となり、その温度変化を基に、理想的な温度管理が可能となる。また、食用動物の鮮度と食べ頃の可視化装置『MIRASAL(見らさる)』と本模擬装置を連携することで、実際の食肉を使用することなく、鮮度評価を行うことが可能となる。

  • 鮮度保持用液状氷の質と量の同時最適化装置

    食品の長期鮮度保持のための液状氷最適化装置

    単純な熱容量計算で食品用液状氷〔スラリーアイス(塩分含有水氷)又は無塩分水氷〕の必要最小量や、保管用容器の総括伝熱係数(容器放熱量パラメータ)を用いスラリーアイス温度を決定する塩分濃度・水/氷混合比及び貯蔵可能時間を算出する装置を開発した。

    • 図 スラリーアイスの温度の実測値と計算値の比較(左上図:キビナゴ、左下図:ハタハタ)とスラリーアイス中の氷量の実測値と計算値の比較(右上図:キビナゴ、右下図:ハタハタ(計算値のみ))

    研究の内容

    これまで、水産動物の鮮度保持に有用なスラリーアイスの製造量は、貯蔵時間を考慮した計算法が無かったため、多くの場合、過剰な量が製造され使用されてきた。そこで当研究室では、先に記載したように、保管用容器の総括伝熱係数を用いて、その場で迅速に、スラリーアイスの質(塩分濃度や水/氷混合比)と量(貯蔵可能時間)を同時に最適化する装置を開発した。本法は、真水由来の塩分を含まない液状氷の製造にも適用可能なため、水産動物以外の食品(野菜・果物・畜産動物)にも利用でき、現在その発明内容の権利化などに取り組んでいる。

  • 食用動物の鮮度と食べ頃の可視化装置『MIRASAL(見らさる)』

    安全・安心を実現する食用動物の鮮度と食べ頃の評価装置

    我々は、産業技術総合研究所と共同で、致死後の食用動物(水産動物や畜産動物)の任意部位における分解成分の濃度の経時変化をシミュレーション法により求め、鮮度と食べ頃を評価するための可視化装置『MIRASAL』を開発した。

    • 図1 開発中の鮮度評価装置の入力画面と計算結果の例

    • 図2 開発中のMIRASALウェブサイト

    研究の内容

    魚介類の産地および消費地における卸売市場では、鮮度が取引価格を決定する1つの重要な基準となっており、その評価指標としてK値が提唱されている。しかし、その値は死後の水産動物の任意の部位をサンプリングし、種々の前処理後に成分分析を行い算出するため、流通現場でのリアルタイム評価(把握)は出来ない。当研究室では、妥当なシミュレーション法による課題解決を考え、上記したような手法を用い、魚介類の種類や大きさ、死後の経過時間や保存温度などの各種情報から、鮮度と食べ頃を評価できる装置を開発し、現在その発明内容の権利化や携帯性の向上(スマートフォン等での利用)などを進めている。本装置『MIRASAL』は、牛肉・鶏肉・豚肉といった畜産動物にも適用可能である。

  • 魚類の細胞を生殖細胞化させる研究

    養殖魚の借腹生産や品種改良の効率化を目指して

    動物の初期胚の細胞の多くは身体を構成する体細胞へ分化し、一部の細胞のみが精子と卵の起源となる生殖細胞へ分化します。当研究室では、魚類初期胚のほぼ全ての細胞を「生殖細胞化」できる技術を開発し、水産業への応用研究を進めています。

    研究の内容

    近年、マグロのように産業的な価値は高いが、飼育が難しい魚の配偶子(精子と卵)を、飼育が容易な魚に作らせる「借腹生産」技術の開発が進められています。効率的な借腹生産を実現する為には、ドナー魚種の生殖細胞を標識・選別・濃縮して、ホストとなる魚に移植する必要があります。しかし、生殖細胞は個体発生の初期にごく一部の細胞集団として出現するため、生殖細胞の選別には高度な技術が必要でした。
    当研究室では、魚類初期胚の全ての細胞、もしくは、特定の細胞を「生殖細胞化」できる技術を開発しました。生殖細胞化した細胞は、選別なしにホストに移植できるため、効率的な借腹生産技術につながります。また、ゲノム編集や染色体操作技術を組み合わせることで、生殖細胞のみの遺伝的改変が可能となり、効率的に目的とする実験魚や品種の作出が可能となります。

    西村 俊哉 助教 Toshiya Nishimura
    理学博士
  • 環境DNAを用いた海洋生物多様性の把握

    環境DNAから,魚類などの海洋生物の生息を把握し,生物多様性情報を得る

    • 生物から分泌物などの形で放出され,水中や土壌に存在しているDNAを環境DNAと呼ぶ。環境DNAを調べることで,そこに生息している生物の種類や量などが分かる。水域における環境DNA調査は,生物を直接捕獲することがなく非侵略的なので,特に希少種や絶滅危惧種の調査に有効である。

    • 河川下流域におけるニホンウナギの環境DNA濃度

      三陸以南の太平洋側に多く,能登半島以北の日本海側と北海道ではほとんど検出されない。全国のニホンウナギの分布が環境DNA分析から明らかになった。

    研究の内容

    水や底泥中に含まれる環境DNAを調べることで,そこに生息する生物を把握することができる。河川,沿岸域から外洋に至る様々な環境でDNAを取得し,生物の分布や量を推定する。それにより生物多様性情報を得ることができる。得られた情報は,COP15で採択された30by30による海洋保護区の選定に用いたり,OECMの認定に役立てたりすることができる。

  • バイオマス由来の環境にやさしい海洋生物付着防止化合物

    フジツボなどに対する有害な海洋生物付着阻害剤が海洋環境汚染の原因となっており、安全な代替品開発が求められている。私たちは、バイオマス由来の化合物を合成することで強力かつ低毒性化合物の創出に成功している。更なる最適化も可能である。

    研究の内容

    人類の海洋利用(船舶や発電所の冷却管など)は不可欠であるが、フジツボなどの付着生物によって船舶の燃費悪化や詰まりなどの機能低下を引き起こされる。機能低下を防止するために、有機スズ化合物が使用されてきたが毒性のため使用が禁止され、代替品の開発が望まれている。私たちは、ウミウシなどの海洋生物が他の生物の付着から防御するために用いる化合物に着目している。化合物の合成の結果、付着防止に重要な官能基(付着防止ユニット)を見出した。この官能基を安価な海洋生物由来のバイオマスに短工程で導入し、合成品の付着阻害試験(タテジマフジツボのキプリス幼生)を行ったところ、非常に強い付着阻害活性と極めて弱い毒性を併せ持つことを見出した。現在、類似化合物の合成や更なる機能を付与する研究を展開している。

  • 一倍体性が動物個体発生に及ぼす影響の理解

    産業利用可能な一倍体制御技術の確立を目指して

    ゲノムを1セットしか持たない一倍体状態が動物個体発生に重篤な障害をもたらす仕組みを解明し、遺伝子工学や品種改良に利用可能な一倍体個体作成技術の確立を目指す。

    研究の内容

    動物細胞の体をつくる細胞は、母方父方2セットのゲノムを持つ「二倍体」です。一方、通常そのままでは増殖を行わない未受精卵を賦活化し、個体発生を誘導すると(単為発生)、母方のゲノムしか持たない「一倍体」胚となります。そこから一倍体個体が得られれば、遺伝子工学や純系作成に大変有用ですが、脊椎動物一般において一倍体胚は「半数性症候群」と呼ばれる初期発生異常により死滅するため、一倍体個体技術の利用は実現していません。私たちは、ヒト培養細胞およびマウス初期胚をモデルに、分子細胞生物学の技術を駆使して、一倍体状態が、発生過程に及ぼす影響を細胞レベルで明らかにすることを目指しています。その成果をもとに、「半数性症候群」を解消する細胞操作法を確立し、安定な形質を持ち生存が可能な一倍体個体の作成を可能にすることを目指しています。

  • 食品素材蛋白質の機能改変

    糖修飾による加工・健康機能の改善

    メメイラード反応を利用して魚肉タンパク質に糖類を結合させることで、加工特性と健康機能(抗炎症機能、血圧上昇抑制、脂質吸収抑制、抗酸化機能)を改変した水溶性筋肉タンパク質・ペプチドが作製できる。畜鶏肉や各種タンパク質にも応用可能。

    研究の内容

    【概要】
    メイラード反応を用いてタンパク質・ペプチドに還元糖類を結合させ、性質を改変した新規な魚肉素材を創製できる。
    【従来技術との比較・独自性】
     筋肉タンパク質のような高分子複合タンパク質は熱凝集しやすく、メイラード反応の進行は諸性状の劣化につながる。我々はタンパク変性の抑制とメイラード反応の制御を両立させ、魚肉タンパク質のような不安定なタンパク質からも機能素材が創製できる道を拓いた。

    【創製できる素材・製造技術の特徴】
    1.化学試薬を不使用で糖鎖導入
    2.筋肉を水溶化、高い乳化特性を付与
    3.不安定なタンパク質の安定性向上
    4. In vivoで働く健康機能の改変
    5.機能ペプチドの開発にも応用可
    6.原料の形態に制約なし

  • ペプチドのN-末をキャッピングする新奇酵素の発見と応用

    新規ペプチドリガーゼ

    ・種々のペプチドのアミノ末端に非タンパク性のアミノ酸をペプチド結合する新規酵素を発見。
    ・有用生理活性ペプチドの保護や新規抗結核薬の開発に期待。

    • キャッピングに用いた化合物(左)、キャッピングできたペプチド

    • 本酵素が触媒する反応機構

    研究の内容

    医薬品としてペプチドを使用する場合の欠点の1つは,ペプチド分解酵素による分解があげられる。ヒトではペプチド末端に作用するエキソ型のペプチダーゼが主要な分解を担っていることから,ペプチド末端を非天然型アミノ酸に置き換えて分解酵素から保護することは医薬品開発の観点から価値がある。今回,ペプチド系抗生物質,フェガノマイシンの生合成研究を行った結果,2~18アミノ酸からなる多様なペプチドのアミノ末端を非天然型アミノ酸であるフェニルグリシン誘導体でキャッピングする酵素を見出した。この幅広い基質特異性を理解するため,酵素の結晶構造を解いた結果,本酵素は他には見られない大きな基質結合部位を有し,これにより多様な基質を受入れ可能であることが明らかとなった。Nat. Chem. Biol., 11, 71 (2015).

  • 人類遺跡を文化資源・地域資源として活用する

    わたしのマチにも「縄文エコミュージアム」を

    遺跡を調査して、「エコミュージアム」の「サテライト」として〈整備保存〉することによって、その土地で暮らす人たちの地域資源として、また人類共有の文化資源として、日常的・持続的に活用するための実践と仕組み作りに取り組んでいます。

    • 噴火湾北岸縄文エコミュージアム(JEM)のイメージ

    • 解明された遺跡の内容に基づいた『JEMの人類史ストーリー』の1例

    研究の内容

    遺跡を開発工事のやっかいものとするのではなく、その土地で生活する人たちの地域資源として、また人類共有の文化資源として、価値転換します。そのために遺跡の一部を計画発掘して、「エコミュージアム」の「サテライト」として〈整備保存〉します。エコミュージアムとは、いわば屋根や壁を必要としない博物館です。サテライトとは野外にある展示対象です。その土地の人たちと共に、遺跡を「歴史遺産」へと整備保存しながら、その中で暮らすことに誇りを持ち、ホストとしてエコミュージアム活動に参画・参加します。遺跡の計画発掘は、地元の方々や教育委員会との連携の下に、大学の教育プログラムの一環である「考古学実習」として実施します。大学教育の一端を地域で実践することに意義を見出し、同時にそのこと自体がエコミュージアム活動の実践になります。

  • 簡易病原菌測定装置

    キットにサンプルを添加するだけで病原菌を測定可能

    測定キットにサンプル(下水、廃水、食品抽出液、飲料水)を0.1mL添加し、装置に設置するだけで、早ければ1時間、遅くても12時間以内に大腸菌、大腸菌群、腸球菌の濃度を測定できる技術を開発しました。

    • 図1 キット(マイクロプレート)に大腸菌を含むサンプルを入れ、培養した後のブラックライト下の写真。大腸菌が含まれていたサンプルが添加された場所(穴、ウェル)だけに青色の蛍光が見られる。蛍光を発していないウェルは添加されたサンプルには大腸菌がいなかったことを意味する。

    • 図2 縦軸はキットを装置に設置し、蛍光強度を10分間隔で測定し、蛍光強度がある閾値を超えるまでに要した培養時間(陽性時間と称する)、横軸は市販のキットで測定した大腸菌濃度を示す。大腸菌濃度と本技術で求めた陽性時間に直線関係が見られた。この事から、本技術は市販のキット(1サンプルの測定コストは約1000円)の代わりとなる事が分かった。

    研究の内容

    現在病原菌の測定には、寒天培地を作る、多量のサンプルを何度も希釈する、24時間培養する、など、多大な時間と労力が必要です。我々は、液体サンプルや食品抽出液を0.1mL注入するだけで大腸菌、大腸菌群、腸球菌といった病原細菌(糞便汚染指標細菌)を測定できるキットを開発しました。現在の一般的な細菌測定技術と比べると、サンプルを溶液と混合するだけの極めて簡便な技術です。細菌濃度は蛍光色素を使って測定されます。蛍光色素は液体が濁っていても測定できるので、廃水や食品からの抽出液などの濁ったサンプルでもいかなる前処理もせずに直接各種細菌濃度を測定することができます。

    佐藤 久 教授 Hisashi Satoh
    博士(工学)
  • 宇宙からの海洋性植物プランクトン探査

    人工衛星を用いて海洋の植物プランクトンの分類探査と定量化技術の開発

    地球観測衛星を用いて、海洋に生息する浮遊微細藻類(植物プランクトン)を人工衛星より遠隔探査する方法を開発しています。現在、遠隔探査としては世界で最も多い分類グループ数(11グループ)を定量観測する方法を研究しています。

    研究の内容

    海洋の植物プランクトンは、魚類生産に必要な生物エネルギー生産を支える一次生産者であり、異なる種類の植物プランクトン間の存在比は異なる生態系構造(従って異なる生物資源)の指標となると考えられます。衛星探査技術への応用により、異なる生態系構造が、世界中のどこで、いつ、どのように変動しているかといったことが分かるようになり、結果的として、効率的な生物・水産資源の探査や評価、管理が可能になると期待されます。

    平田 貴文 特任准教授 Takafumi Hirata
    Ph.D.
  • 気候変動下における北極海洋システムの回復力と適応力

    環北極海全域の海洋生態系の統合的理解

    日本、米国、ノルウェーで進行中の環北極海域(北極海および隣接する周辺の亜寒帯海域)の既存研究課題の個別研究成果を発表する国際ワークショップを開催し、共通点や差異を整理しながら各海域における成果の統合的な理解を目指している。

    • 植物プランクトンの大型サイズの占有率分布。赤いところほど珪藻などの大型の植物プランクトンが占める。(a)2006年8月 (b)2007年8月

    研究の内容

    本研究では、環北極海域(北極海および隣接する周辺の亜寒帯海域)における共通点や差異を整理しながら太平洋−北極海−大西洋における環境変化と海洋生態系の応答について統合的に理解することを目的とする。国際共同研究プログラムIMBeR(海洋生物圏統合研究)の地域研究プログラムESSAS (Ecosystem Studies of Sub-Arctic and Arctic Seas:亜寒帯域および極海における海洋生態系研究)を母体にそこに参画している日本、米国、ノルウェーの科学運営委員を中心に研究を推進する。具体的には、2015年から2018年の間に、各国で進行している既存の研究成果を発表する国際ワークショップを3回開催し、環北極海全域の海洋生態系の統合的理解を図る。

    齊藤 誠一 研究推進支援教授・研究員 Sei-Ichi Saitoh
    水産学博士
  • グリーンランドにおける氷河氷床・海洋相互作用

    温暖化するグリーンランドの沿岸環境

    北極域に位置するグリーンランドでは、氷河氷床の質量が近年急速に減少しています。わたしたちは、氷河氷床と海洋が接するグリーンランド沿岸の環境変化に着目して、現地調査や人工衛星データを用いた研究を行っています。

    • 氷に覆われた北極域の島グリーンランド

    • 氷河上での観測風景

    • 年々後退する氷河の末端部

    研究の内容

    グリーンランドは日本国土の約6倍の面積を持ち、その80%が氷河氷床で覆われています。このグリーンランドの氷が、地球温暖化の影響を受けて急速に減少しています。特に氷床から海洋へ流れ込む氷河で顕著な変化が起きており、温暖化する海洋の影響を示唆しています。また融け水が海に流入して海水準が上昇する他、海洋循環や生態系の変化が予想されますが、その詳細は明らかになっていません。このような背景を受けて、氷河氷床と海洋の相互作用、その結果生じるグリーンランド沿岸環境の変化解明に取り組んでいます。特に北西部のカナック地域に焦点をあて、現地観測や人工衛星データ解析を実施しています。最終的には、環境変化が漁業や交通に与える影響を明らかにして、地元住民に成果をフィードバックすることを目指します。

  • シベリア先住民と野生動物の共生策を探る

    “利用しつつ守る”順応的鳥獣管理システムの実践研究

    地域社会と野生動物の軋轢(農業被害や外来種問題など)を軽減するため、住民参加・住民主体の調査・対策を企画・実施し、ボトムアップ型の政策支援を行っています。近年はシベリア先住民の暮らしを守る野生動物保護区の設定にも携わっています。

    • 調査対象の野生ツンドラトナカイ(サハ共和国にて)

    • 先住民との軋轢が増加するホッキョクグマ(同上、IBPC提供)

    • 調査データを地元の子供たちの環境学習に活用(同上)

    研究の内容

    ◇野生トナカイなどの実態調査と保護区の設定
     ”日本に最も近い北極”である、ロシア連邦サハ共和国の北極域において、先住民が利用する野生動物(トナカイ、ジャコウウシ、オオカミなど)に衛星発信機を装着し、温暖化の影響や季節移動の実態を明らかにしてきました。またその情報を元に、先住民団体、地方行政府、狩猟団体などと協働し、伝統的生活に資する保護区や猟区を設定して評価を行っています。
    ◇渡り鳥の生息実態調査と国際保護区の評価
    シベリアは、日本をはじめ北極域・北方圏を利用する渡り鳥の重要な繁殖地ですが、やはり温暖化により生息環境が変化しつつあります。そこでこれまで個別に行われていた各国の調査をネットワークし、温暖化の影響と生息地保護区の評価を総合的に行うための調査・研究・実践を行っています。

  • 光るプランクトン

    カイアシ類のGFPとルシフェラーゼ

    海洋生物の中には生物発光をする様々な生き物が居ます。プランクトンの中で最優占するカイアシ類から、蛍光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)と分泌型ルシフェラーゼ(発光酵素)を同定しました。

    • 北極海では近年の海氷衰退により、もともと北極海にあった群集(左図の群集B)が、太平洋産種を含む亜寒帯性の群集(群集A)に代わりつつある様子が、1991/92年と2007/08年の比較で分かります。動物プランクトン相に優占するカイアシ類には、生物発光能力を持つ種も多く、右の写真はGFP(右上図)とルシフェラーゼ(右中図)を持つ種です(右下図はカイアシ類の明視野写真)。

    研究の内容

    動物プランクトンは、海洋生態系において基礎生産を高次生物に受け渡す、エネルギー転送者としての役割を持っています。北極海に優占する動物プランクトンはカイアシ類で、大半の種が1年以内の世代時間を持ち、かつホルマリン固定にて、半永久的な試料保存が可能なため、該当海域における生物生産の経年変動を評価するのに適した分類群です。またカイアシ類のうち、いくつかの種は生物発光能力があります。これは、暗い海の中で、捕食されそうになった時に発光し、捕食者への目くらましに使用すると考えられています。カイアシ類から、蛍光タンパク質(GFP)とルシフェラーゼ(発光酵素)を同定しました。