北海道大学 研究シーズ集

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安定で実用的な酸化物熱電変換材料

太田 裕道 教授 Hiromichi Ohta
博士(工学)

層状コバルト酸化物のナトリウムイオンを原子量が重いバリウムイオンに置き換えた結果、電気的な特性は変化せず、熱伝導率だけが減少した。室温で熱電変換性能指数ZTが0.11に達することを発見した。

研究の内容

熱電変換は、廃熱を再資源化する技術として注目されています。熱電材料として、金属カルコゲン化物が知られていますが、熱的・化学的安定性や、毒性の問題があります。層状コバルト酸化物は高温・空気中においても安定ですが、熱伝導率が高く、変換性能が低いという問題がありました。研究グループは,層状コバルト酸化物AxCoO2の熱伝導率を下げるために,図1に示す戦略を考えました。図2に,室温において計測したAx置換AxCoO2薄膜の層に平行な方向の熱電特性をまとめて示します。熱伝導率はAx原子量の増加に伴って単調に減少する傾向を示しました。Ba1/3CoO2の室温の熱電変換性能指数は0.11です。性能指数ZTは高温になるほど上昇します。さらに熱電変換性能を増強することで、安定で実用的な熱電変換材料が実現すると期待されます。

  • 見出し:層状コバルト酸化物の結晶構造(左)と熱電変換性能指数ZT(室温)のAイオン依存性(右)

  • 図1 (左)層状コバルト酸化物AxCoO2の結晶構造。(右)AxCoO2の層に沿った方向の熱伝導の模式図。「ばね」がたくさん入っているマットレスの上に赤ちゃんを乗せてもマットレスの「ばね」は影響を受けないのに対し,例えば大きな力士が乗れば「ばね」は縮んで動かなくなります。

  • 図2 Axを置換したAxCoO2薄膜の層に平行な方向の熱電特性(室温)。 [(熱電能)2×(導電率)]で表される出力因子はAxに依らずほぼ一定なのに対し,熱伝導率はAx原子量の増加に伴って単調に減少する傾向を示しました。Baはアルカリ金属とアルカリ土類金属の中から選ぶことができる最も重い元素です。この低熱伝導率化だけが熱電変換性能指数の変化にそのままに反映され,Ba置換したBa1/3CoO2では酸化物の室温の熱電変換性能指数としては最大の0.11に達することがわかりました。

社会実装への可能性

  • 研究室では、材料の真の性能を引き出すために単結晶のような薄膜で熱電変換性能指数を計測しています。粉体プロセスや焼結プロセスにより大きなバルクにすることができれば、高温の廃熱を電気に変換する熱電変換材料として応用できると考えています。

産業界や自治体等へのアピールポイント

毒性がなく、耐熱性、耐酸化性に強い酸化物の
熱電変換材料です。

関連情報

論文名 Layered cobalt oxide epitaxial films exhibiting thermoelectric ZT = 0.11 at room temperature(室温で熱電変換性能指数ZT = 0.11を示す層状コバルト酸化物エピタキシャル薄膜)
著者名 高嶋佑伍1,張 雨橋2,魏 家科3,馮 斌3, 幾原雄一3, ジョヘジュン1,2, 太田裕道1,21北海道大学大学院情報科学院,2北海道大学電子科学研究所,3東京大学大学院工学系研究科)
雑誌名 Journal of Materials Chemistry A(英国・王立化学会 材料化学の専門誌, IF = 11.301)
DOI 10.1039/D0TA07565E

研究キーワード

2021/2/17公開