北海道大学 研究シーズ集

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高温・空気中で安定した性能を示す実用的な熱電変換材料

太田 裕道 教授 Hiromichi Ohta
博士(工学)

再現性良く実用レベルの高性能を示す酸化物熱電材料

Ba1/3CoO2が、空気中・600℃においてZT ~0.55を示すことを発見しました。高温・空気中で再現性良く高性能を示す実用的な熱電変換材料がついに実現したと言えます。

研究の内容

【背景】熱電変換は、廃熱を再資源化する技術として注目されています。いくつかの酸化物が実用材料PbTeの性能指数ZTを超える熱電材料になると提案されましたが、再現性がなく、実用化されることはありませんでした。当研究グループは、Ba1/3CoO2が室温においてZT ~0.11を示すことを発見しましたが、その高温特性は未解明のままでした。
【アプローチ】Ba1/3CoO2エピタキシャル薄膜を作製し、安定な加熱温度範囲を調べ、その温度範囲内における熱電特性を計測しました。
【結果】
・Ba1/3CoO2が空気中・600℃においてZT = 0.55を示すことを発見。
・実用化された非酸化物熱電変換材料の性能に匹敵する高いZT
・高温・空気中で再現性良く安定した高性能を発揮。

  • Ba1/3CoO2の結晶構造(左)と熱電変換性能指数ZTの温度依存性(右)

  • 層状コバルト酸化物AxCoO2(Ax = Na3/4、 Ca1/3、 Sr1/3、 Ba1/3)の熱安定性。(左)作製直後のAxCoO2薄膜の室温における電気抵抗率。Ba1/3CoO2の抵抗率は、約0.85 mΩ cm。(右)空気中・室温から650℃まで、50℃刻みで昇温し、各温度で30分間加熱した後、室温で計測したAxCoO2薄膜の電気抵抗率の加熱温度依存性。Ba1/3CoO2薄膜の室温における電気抵抗率は空気中・600℃加熱後も変化しなかった。

  • 層状コバルト酸化物AxCoO2(Ax = Na3/4、 Ca1/3、 Sr1/3、 Ba1/3)の空気中における熱電特性の温度依存性。Ba1/3CoO2薄膜の出力因子は温度上昇に対して増加し、600℃では約1.2 mW m−1K−2であった。一方、熱伝導率は温度上昇に対して減少し、600℃では約1.9 W m−1 K−1であった。その結果、性能指数ZTは温度上昇に対して増加し、600℃では約0.55に達した。

  • Ba1/3CoO2薄膜の空気中、600℃における熱電能。(上)環境温度、(下)熱電能。Ba1/3CoO2薄膜の熱電能は、約2日間経過後においても130~140 μV K−1で安定している。

社会実装への可能性

  • Ba1/3CoO2は、粉体プロセスや焼結プロセスにより大きなバルクにすることが可能です。社会実装の可能性は十分にあると考えています。

産業界や自治体等へのアピールポイント

Ba1/3CoO2を社会実装するためには、大型のバルク化が必要不可欠です。当研究室だけでは難しいので、是非共同開発を行いたいと考えています。

関連情報

論文名 Ba1/3CoO2: A thermoelectric oxide showing a reliable ZT of ~0.55 at 600℃ in air (Ba1/3CoO2: 空気中、600℃で信頼性あるZT ~0.55を示す熱電酸化物)
著者名 張 習 1、張 雨橋 1、呉 礼奥 2、鶴田彰宏 3、三上祐史 3、ジョヘジュン 1、太田裕道 11北海道大学電子科学研究所、2北海道大学大学院情報科学院、3産業技術総合研究所中部センター)
雑誌名 ACS Applied Materials & Interfaces(米国・化学協会 材料科学の専門誌, IF = 10.383)
DOI 10.1021/acsami.2c08555
公表日 2022年 7月 12日(オンライン)オープンアクセス

研究室HP
https://functfilm.es.hokudai.ac.jp/
北海道大学プレスリリース
https://www.hokudai.ac.jp/news/2022/07/post-1075.html

研究キーワード

2022/7/22公開